ビットトレント利用者に対する発信者情報開示請求とは?
ここ最近、ファイル共有ソフト、特にBitTorrent(ビットトレント)を利用されている方から、「著作権侵害を理由とするプロバイダからの意見照会書が自宅に届いたがどうすればよいか」、という相談が増加しております。今回は、BitTorrentとは何か、意見照会書への対応はどのようにすれば良いか、発信者情報の開示請求はどのように進むのか、解決するためにはどうすればよいのか、といった疑問にお答えいたします。
BitTorrent(ビットトレント)とは
複数のコンピュータ間で通信を行う際のアーキテクチャには、いくつかの種類がありますが、その中に、P2P(Peer To Peer:ピアツーピア)という通信形態が存在します。これは、ネットワーク上の各端末がホストやサーバーを介さず、1対1で直接接続して通信を行うというものです。一昔前のものですが、この技術を応用したWinnyというファイル共有ソフトの名前については、聞いたことのある人も多いかもしれません。
BitTorrentプロトコルも、インターネット上のファイル交換アプリケーションの一種であり、2000年代から利用されています。BitTorrentを利用するためには、クライアントソフトというものが必要になり、代表的なものとしては、BitTorrent、qBittorrent、BitComet(ビットコメット)、μTorrent(マイクロトレント、ミュートレント)、Vuze(ヴューズ(旧名称:アズレウス))等が存在します。このように、BitTorrentクライアントは様々なプラットフォームに実装されており、日本語での利用も可能になっているため、日本でも一定の人々が利用していると考えられます。
BitTorrent(ビットトレント)による著作権侵害の事例
現在、当事務所でも、BitTorrentの利用者から、「自宅に発信者情報開示請求書が届いた」という相談が増加しています。BitTorrentは、漫画、アニメ等のコンテンツの違法アップロード、ダウンロードの温床となっており、著作権侵害(送信可能化権侵害、公衆送信権侵害)の自覚がないまま、または、自覚があっても大事にはならないだろうと考えて、安易に利用してしまっている事例が多数見受けられます。
以下では、発信者情報開示請求の概略と、BitTorrentの利用がどのように違法性を有するのかを解説していきます。
発信者情報開示請求とは
発信者情報開示請求とは、特定電気通信(プロバイダ責任制限法第2条1号)による情報の流通によって自己の権利を侵害された者が、プロバイダ等に対して、情報の発信者に関する情報を求める手続です。
この手続は、匿名掲示板等での誹謗中傷の書込みや、Twitter等のSNSでの誹謗中傷の発信者を特定するために使われることが多いですが、著作権侵害の事例でも利用されます。
誹謗中傷の書込みに関しては、当該投稿が本当に他人の権利を侵害するものといえるのか争われる事例が多く、開示請求訴訟に発展することも多いです。一方、著作権侵害の事例では、権利侵害性が一見して明白であるため、争うべきか、争ったとして勝機があるのかを慎重に検討しなければなりません。
BitTorrent(ビットトレント)利用者に対する発信者開示請求の特徴
令和2年から令和3年にかけて、BitTorrent(ビットトレント)利用者に対する発信者開示請求の事例が、複数見られるようになりました。
匿名掲示板やSNSにおける誹謗中傷に対する開示請求では、①匿名掲示板や各種SNSに対する発信者情報開示仮処分で発信者のIPアドレスを取得し、②経由プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟を行う、という手順が一般的です。
一方、BitTorrent(ビットトレント)の事案では、
①アップロードを行っている者のIPアドレスが確認できるため、IPアドレスを取得するための仮処分手続がそもそも不要
②「P2P FINDER」というシステムにより発信者の特定を行っている場合、発信者が開示を拒否したとしても、訴訟を経ずに開示される可能性がある
③著作者の対応によっては刑事事件として取り扱われる可能性もあるが、名誉毀損や侮辱よりも法定刑が重いため、早期に弁護士が介入すべき事例がある
という特殊性があります。
BitTorrent(ビットトレント)における発信者開示請求の裁判例
BitTorrent(ビットトレント)利用者の情報開示を求めるための訴訟は多数ありますが、判例検索サービス等に掲載されたものだけでも、下記があります。
①東京地方裁判所令和2年(ワ)第19880号→開示
②東京地方裁判所令和2年(ワ)第20083号→開示
③東京地方裁判所令和2年(ワ)第20121号→棄却
④東京地方裁判所令和2年(ワ)第20484号→棄却
⑤東京地方裁判所令和2年(ワ)第20960号→開示
⑥東京地方裁判所令和2年(ワ)第23327号→開示
⑦東京地方裁判所令和2年(ワ)第24024号→棄却
⑧東京地方裁判所令和2年(ワ)第24090号→開示
⑨東京地方裁判所令和2年(ワ)第24110号→開示
⑩大阪地方裁判所令和2年(ワ)第8609号→開示
⑪大阪地方裁判所令和2年(ワ)第8610号→開示
⑫東京地方裁判所令和3年(ワ)第2608号→開示
以上のように、12件中9件と、多くの訴訟で開示が認められています。
ただ、著作権侵害事例での発信者情報開示請求は、知財事件として東京地裁・大阪地裁の専門部に回されるため、同一の裁判体が判断する例が多くなります。上記3件の棄却判決は、いずれも同一の裁判体であり、棄却した理由はいずれも「原告代理人の調査方法では、表示されるIPアドレスが実際のIPアドレスと一致する証拠がない」というものです。
これらの裁判では、いずれも原告訴訟代理人がIPアドレスの調査を行った事例ですが、後述の「P2P FINDER」を用いた調査を経ている場合には、上記の棄却理由があてはまらないため、開示される可能性が更に上がるものと考えられます。
認定を受けた権利侵害情報の流通に関する検知システムについて
一般社団法人テレコムサービス協会プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会(以下「協議会」といいます。)は、「P2P FINDER」と呼ばれるシステムを、P2Pによる権利侵害情報の流通を解析するシステムとして、唯一認定しています(https://www.telesa.or.jp/consortium/provider/p2ptechreq)。発信者情報開示請求を任意で行う際、当該システムを利用しているのであれば、
(1)P2Pを利用したユーザーのIPアドレス等を特定した方法の信頼性
(2)発信者の故意又は過失により権利侵害が生じたということについての技術的な根拠
の提出が不要であるとされています。
「P2P FINDER」を利用している場合、IPアドレスの誤特定の可能性は少ないため、争点は権利侵害性の部分が主となります。しかし、前述のとおり、著作権侵害の場合は権利侵害性が明白なことが多いため、「P2P FINDER」を請求者(又は請求者代理人)が用いている場合、プロバイダの対応にもよりますが、発信者が開示を拒否しても、そのまま任意で開示される可能性があります。
手元に意見照会書が届いたら
今まで述べたとおり、「P2P FINDER」を用いた調査を経ている開示請求の場合、著作権侵害の事実が明白であることから、発信者の情報が開示される可能性が非常に高いです。そのため、こちらから任意で開示を申し出た上で、適切な額で示談をするという選択肢も視野に入ってきます。
もっとも、著作権侵害の事例では、賠償金の算定方法が特殊になっています。事例によっては数千万円の賠償を請求される、ということもあり得ますが、支払うべき示談金はいくらが妥当なのかという点については、弁護士の確認を経ることが必要不可欠です。
そのため、手元に意見照会書が届いたら、対応について、すぐに弁護士のもとへご相談ください。時間が経つと、請求額に調査費用を上乗せされる可能性もあるため、まずはただちにご連絡ください。
当事務所では、BitTorrentに関して、意見照会書が手元に届いたという発信者側の相談を受け付けております。ご事情をお伺いした上で、弁護士が介入することでメリットがある事案なのか、示談をする場合にはどのように行えばよいか等をアドバイスいたしますので、まずは早期にご相談ください。
まとめ
BitTorrent(ビットトレント)利用者のもとに、プロバイダからの意見照会書が届くという事例が増加しております。
意見照会書への回答方法、示談の進め方等は、弁護士の確認を経ることが必要不可欠です。お手元に意見照会書が届いたら、まずはすぐにご相談ください。