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ネットでの誹謗中傷で訴えられたら?誹謗中傷のリスクと対応

SNSの発達によりネット上の炎上が増え、誹謗中傷に関わる訴訟が大きく取り上げられるようになりました。
それに伴い、過去の軽はずみな投稿で「訴えられたらどうしよう」と不安に思う人も増えています。
今回は、ネット上のどんな投稿が、どんな罪に問われる可能性があるかを解説。
実際に訴えられた場合の流れや取るべき対応、訴えられないようにするための対策についてもお伝えいたします。

急増するネットでの誹謗中傷事件

インターネットの発展により、コミュニケーションの輪が広がる一方で、ネット上での誹謗中傷事件が問題になっています。
法務省の人権擁護機関によれば、同期間が平成29年にネット上の人権侵害を処理した件数は2,285件。
10年前の平成20年には534件だったので、10年で約4倍に増えたことになります。
参照:http://www.moj.go.jp/content/001253506.pdf

この背景には、SNSの発展により登場した、私生活を公開したり実生活での知り合い以外とも気軽にコミュニケーションできたりする環境にあると考えられます。
・自分にないものを持っている人が妬ましい
・いけないことをしている人を見つけて、正義感から過剰に叩いてしまう(炎上)
・実生活のストレスのはけ口として、攻撃しやすい人を狙う
・他人を攻撃することで、自分が偉くなったように感じる
こういった心理が呼び起こされ、ネットで誹謗中傷をしてしまう人が増えているのです。
元AKB48の川崎希さんが、ネット上の悪質な投稿に対して刑事告訴を行なったり、女優の春名風花さんが誹謗中傷被害で民事訴訟を起こして示談となったりしたことも、大きく報じられました。
もし、軽い気持ちでやってしまった誹謗中傷で訴えられたらどんな展開になるのか、次からの項目で知っていきましょう。

ネットでの誹謗中傷で訴えられたらどんな罪になる?

まず、訴えられた際には、その訴訟が刑事か民事かで、問われる罪や罰則、支払い金額などが異なります。
刑事のみ・民事のみということもありますし、両方同時に責任を問われることもあります。

刑事告訴

刑事告訴をされると、警察に逮捕されて罰金や禁固刑が科される場合があります。

名誉毀損罪

名誉毀損罪とは、「具体的な事実を摘示して、人の名誉(社会的評価)を低下させること」。
「具体的な事実を摘示」とは、「Aさんは不倫をしている」「Aさんは会社の金を横領している」といった、証拠等から真否を決することが可能な事柄をいいます。
この事実が真実かどうか、証拠があるかどうかなどは、名誉毀損になるかどうかに関係はありません。
名誉毀損で訴えられた場合、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が科せられます。

侮辱罪

侮辱罪とは、「具体的な事実を摘示せずに人を侮辱すること」です。
名誉毀損と似ていますが、「具体的な事実を摘示していない」という部分が異なります。
例えば、「バカ」「チビ」「デブ」といった、悪口が侮辱罪に当たります。
刑事告訴で侮辱罪が認められると、罰として拘留または科料が科されます。

信用毀損・業務妨害

信用毀損罪は、「虚偽の情報を流したり、人を騙したりすることにより、他人の信用を毀損すること」。
業務妨害罪は、「他人の業務を妨害すること」をいいます。
これらは、個人だけではなく会社や団体などを誹謗中傷した時にも該当します。
例えば、ネットで「A社は倒産寸前」「A社の商品は体に悪い」といった投稿を行うと、信用毀損罪・業務妨害罪に問われる可能性があります。
信用毀損罪・業務妨害罪が認められると、それぞれ3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

民事上の責任追及

民事で訴えられた場合、それ自体から逮捕されることはありませんが、被害者が負った損害や心理的苦痛に対して損害賠償責任を負うことになります。
民事上で追求されるのは、犯罪ではなく、肖像権・プライバシー権の侵害など。
例えば、本人の意に反して、写真や個人情報をネットに投稿した場合に該当します。
損害賠償の金額は被害者が受けた被害の大きさによって異なり、相手が一般人の場合は10~50万円、有名人の場合内容次第では100万円を超えることもあり、幅広いです。

誹謗中傷で訴えられた時の対応

それでは、誹謗中傷で訴えられた場合、どのように対応すれば良いのかを知っていきましょう。

刑事告訴の流れ

誹謗中傷の刑事手続は、基本的には、被害者が警察に告訴状を提出することで始まります。
告訴状が提出されたということは、発信者開示請求などで身元が明らかになっている可能性が高いといえます。
警察が告訴状を受理し、刑事事件として捜査を開始すると、逃亡・証拠隠滅を防ぐために逮捕される可能性があります。
その後、裁判が行われ有罪判決になると、刑務所に収監されたり、罰金が科せられたりといった罰則が決定します。

民事上の責任追及の流れ

民事訴訟で訴えられると、まず裁判所から「訴状」が届きます。
訴状には、証拠書類や「口頭弁論期日呼出状および答弁書催告状」、「答弁書」とその書き方などが同封されています。
この訴状や添付書類の案内通りに、答弁書を提出し、呼出日に裁判所に出頭して裁判を受けるというのが一連の流れです。
しかし、実際にはいきなり訴状が届くのではなく、事前に被害者の弁護士から示談の打診があることが多いです。
訴えられそうになったら、加害者側からも示談交渉を行うことができます。

訴えられた時の正しい対応は?

ネット上の誹謗中傷で訴えられたら、裁判に発展する前に示談をまとめるのが得策です。
「犯人だと思われているが、絶対にやっていない」など訴訟内容に不服があるわけではないなら、裁判に発展して良いことはありません。
裁判にならなければ、訴訟記録で身元が明らかになったり、前科がついたりすることはないため、早急に示談をまとめましょう。

削除依頼の相談は弁護士がおすすめ

ツイッター社に削除依頼をしても通らなかったツイートの削除は、弁護士に依頼するのがおすすめです。
ツイッター社に削除依頼をしても削除されないということは、専門知識のない人がツイッターのルールに違反していることを証明するのは難しいということです。
法知識が豊富な弁護士に依頼をすることで、削除が正当である根拠を強化することができ、削除依頼が通る可能性が高くなります。
仮処分命令申立ては裁判手続きなので、手続きが複雑で手間がかかります。
また、ツイッター社側の代理人は当然弁護士なので、法知識がないと主張が通らない可能性が高いです。
弁護士に削除依頼を任せることで、手間のかかる手続きを一任でき、交渉も任せることができます。
弁護士にツイートの削除を依頼する費用は、弁護士にもよりますが、概ねの目安としては、裁判所を通さない任意請求の場合は5~20万円程度、仮処分命令申立て等裁判所を通す場合で40万円前後です。

弁護士に相談するタイミング

弁護士に相談するべきタイミングは、訴えられたことがわかった直後又はプロバイダから発信者情報開示請求訴訟における意見照会書が届いた時点です。
特に刑事手続の場合は逮捕される可能性があるため、弁護士にすぐに相談することで適切な対応が可能となります。
ただし、被害者が「これから犯人を特定して訴える」などと公表している場合であっても、何等の法的手続を取っていないのであれば、金銭的な負担を考慮すれば、弁護士に相談する必要はないでしょう。

誹謗中傷で訴えられないために

誹謗中傷で訴えられないためには、当然ですが誹謗中傷をしないこと。
訴えられない範囲なら、人を嫌な気持ちにさせても良いというわけはありません。
自分の投稿に、少しでも人を傷つける要素はないか、送信する前に立ち止まってよく考えましょう。
もし過去に誹謗中傷をしてしまっていたら、できる限り投稿を削除し、情報が拡散しないようにすることが大切です。
投稿を削除しても発信時の情報は残るので、個人を特定される可能性はありますが、名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪で、被害者が訴えない限りは罪に問われません。
投稿を削除し、被害者に反省の気持ちを伝えて受け入れられ、示談が成立するなどすれば、訴えられない可能性もあります。

まとめ

ネットでの誹謗中傷事件が大きく取り上げられるにつれ、「訴えられたらどうしよう」と不安に感じる人も多いです。
過去にネットで誹謗中傷をしてしまった場合、できる限り投稿を削除して、被害者の名誉回復に努めましょう。
ただし、投稿を削除しても発信者情報は残るので、訴えるかどうかは被害者次第。
誹謗中傷で訴えられた場合には、速やかに弁護士に相談し、示談交渉を行うのが得策です。

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