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プロバイダ責任制限法とは?
手続きの方法&問題点も解説

「プロバイダ責任制限法」は、2002年に施行された比較的新しい法律です。
このプロバイダ責任制限法によって、ネット上で誹謗中傷などの権利侵害が行われた場合、サイトの管理者側が行うべき対処と、被害者が請求できる権利が定められています。

今回は、プロバイダ責任制限法について、特に、サイト管理者側がいかなる対処を求められるのかに注目しながら、その内容や実際に適用された事例、現行法の問題点などについて解説していきます。

プロバイダ責任制限法とは何か

プロバイダ責任制限法とは、ウェブページに掲載された情報が犯罪や権利侵害に関わっていた場合、プロバイダやサイト管理者の責任の範囲を定めた法律です。
正式名称は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます。

プロバイダ責任制限法の背景

プロバイダ責任制限法が制定された背景には、ネット上での権利侵害と、発信者の表現の自由が関わっています。

例えば、あるサイトに誹謗中傷が書き込まれた場合、もちろん最も責任を問われるべきなのは発信者本人ですが、その書き込みを放置した管理者にも全く責任がないとは言えません。
誹謗中傷の被害者は、発信者だけではなくサイトやサーバーの管理者、プロバイダを相手取って訴えを起こす可能性があります。

しかし、その書き込みを安易に削除してしまうと、発信者側から「表現の自由の侵害」として賠償請求をされるリスクがあります。
プロバイダ責任制限法というルールを定め、プロバイダ・サーバー管理者・サイト管理者の責任の範囲を明確にすることが必要となったのです。

プロバイダ責任制限法とは

プロバイダ責任制限法には、「プロバイダやサイト管理者の損害賠償責任の制限」と「被害者保護」という2つの側面があります。

①プロバイダやサイト管理者の損害賠償責任の制限

プロバイダやサイト管理者(以下、「サイト管理者等」といいます。)の損害賠償責任の制限とは、その管理者が関わるウェブサイトで権利侵害があった場合、一定の条件下では、管理者には責任がないとされることです。

①削除対応を行わないことが問題となる場合
サイト管理者等が違法な投稿を削除せず放置している場合、違法な投稿を放置された者は、サイト管理者等に対して損害賠償請求を行うことが可能です。ただし、
・サイト管理者等が情報の流通を知っており、かつ、違法な投稿を放置された者の権利が侵害されていることを知っていた場合
・サイト管理者等が情報の流通を知っており、かつ、被害者の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足る相当の理由がある場合
以外は、サイト管理者等が当該権利を侵害した情報の発信者である場合を除いて、賠償責任がありません(法3条1項1号及び2号)。

②開示請求への拒否が問題となる場合
また、サイト管理者等が発信者情報開示請求を拒んだ場合、開示請求者は、サイト管理者等に対して損害賠償請求を行うことが可能です。ただし、
・開示を認める要件のいずれにも該当することが一見明白であり、その旨認識することができなかったことについて、サイト管理者等に少なくとも重大な過失がある場合
でなければ、サイト管理者等には賠償責任がありません(法4条4項、最三小判平22・
4・13)。

③削除対応に応じた結果、必要のない部分まで削除したことが問題となる場合
これに対し、サイト管理者等の対応により、適法な投稿まで削除されてしまった発信者からも、サイト管理者等に対して損害賠償請求を行うことが可能です。ただし、
・権利が不当に侵害されていると信じるに足る相当の理由がある
・サイト管理者等が発信者に対し意見照会を行ったが、照会を受けた日から7日を経過しても、当該発信者から不同意の回答がなかったとき
どちらかに該当すれば、管理者は賠償責任を免責されます(法3条2項1号及び2号)。

②被害者保護

プロバイダ責任制限法では、被害者保護に役立つ制度も定められています。
「削除請求」と「発信者情報開示請求」という2つの制度に関して、後の項目で詳しく解説します。

ガイドライン

プロバイダ責任制限法に関する詳しいガイドラインは、「プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会」が検討・作成していて、随時新しいバージョンが発信されています。
自身が関わるウェブサイトにおいて、権利侵害などの問題が発生した場合、管理者にはこのガイドラインに即した適切な対応が求められます。

「名誉毀損・プライバシー関係」「著作権関係」「商標権関係」「発信者情報開示関係」とカテゴリ別に制定されていて、その内容は以下のURLから確認できます。
http://www.isplaw.jp

プロバイダ責任制限法に基づきできること

それでは、プロバイダ責任制限法に基づいて、被害者がプロバイダに請求できる権利についてお伝えしていきます。

削除請求

プロバイダ責任制限法第3条には、情報の流通により他人の権利が侵害された場合、サイト管理者等が損害賠償責任を負いうることが規定されています。そのため、多くのサイトでは、「プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会」が策定した削除依頼のための書式や、それを基に作成した削除依頼の書式により、送信防止措置依頼を受け付けています。
サイト管理者等が、権利侵害を主張する者やその代理人から送信防止措置請求を受けた場合、投稿内容を確認し、削除に応じるかを判断することが求められます。

発信者情報開示請求

プロバイダ責任制限法第4条で定められている「発信者情報開示請求」とは、権利侵害をする投稿をした発信者の個人情報を開示するように請求することです。

発信者情報開示請求を受けたサイト管理者等は、投稿内容を確認し、発信者情報の開示に応じるかを判断することが求められます。

手続きの方法

削除請求と発信者情報開示の請求方法は、「裁判外請求」と「訴訟による請求」の2パターンがあります。

裁判外請求とは、サイト管理者等に対し任意の投稿削除や情報開示を依頼する方法。
訴訟による請求は、裁判によって強制力をもって削除や情報開示を求める方法です。

一般的には、先に任意請求を行い、それで対応されなければ訴訟を起こすというステップで進めることが多いです。

なお、裁判外での開示請求を促進するため、令和3年4月、一般社団法人セーファーインターネット協会が「権利侵害明白性ガイドライン」を発表しました。今後、同ガイドラインが活用され、裁判外請求での開示が認められる範囲が拡大することも考えられます。

プロバイダ責任制限法の改正点

令和3年4月21日、改正プロバイダ責任制限法が成立しました。以下では、改正による変更点について確認していきます。

開示請求の対象拡大

令和2年8月、プロバイダ責任制限法の改正に先立って同法の省令が改正され、発信者情報開示で開示できる情報に、電話番号が追加されました。電話番号が開示された場合、弁護士会照会という手続で本人を特定することが可能な場合が多いです。

もっとも、現在、電話番号の開示には、短期間で終わる仮処分手続ではなく、本案訴訟を行うことが必要であると理解されています。そのため、国外のプロバイダに対する開示請求では、開示に1年程度かかることも考えられ、改正による効果は限定的といえます。

ログイン型投稿も開示対象に

実は、現行法では、ログイン時の通信しか保有していないプロバイダのログイン通信について、開示請求の対象とならないと解釈する余地がありました。そのため、Google、Twitter、Facebook等のログイン情報しか保有していないSNSの場合に、開示請求をそもそも認めて良いかという論点が存在しました。
これらのSNSについて、開示を認める裁判例と認めない裁判例が分かれておりましたが、改正法では、正面から開示を認める条文が創設されることになりました。
今後、ログイン情報について、どのような範囲で開示を認めるのかが詳しく定められますが、サイト管理者等の側からも、新たに創設された条文のもと、ログイン情報をもとに発信者情報を開示すべきか否か、適切に判断していく必要があります。

新たな裁判手続の創設

現行法で発信者の情報を特定するためには、たいていの場合、IPアドレス等の開示を求める仮処分手続の後、契約者の氏名・住所等の開示を求める裁判を起こすことが求められ、少なくとも2段階の手続を踏む必要がありました。
改正法では、「発信者情報開示命令事件」という新たな手続が新設され、従来よりも迅速な解決が図られることが期待されています。

新たな制度では、IPアドレスを保有するプロバイダと、契約者情報を保有するプロバイダが適切に協力することが前提とされています。今後、サイト管理者等は、手続への協力を求められる場面が増加すると考えられます。

まとめ

プロバイダ責任制限法は、サイトの管理者側と、ネット上の権利侵害の被害者の両方を保護する法律です。
この法律があることで、被害者の権利や、管理者側の責任の範囲が明確になっています。
今後、サイト管理者等の対応すべき範囲も大きく変わっていくことが予想されます。

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